2006年以前のほとんどの建物に使われています。
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アスベスト被害は「建物所有者らの責任」、北九州市と管理会社の連帯で約2580万円の賠償命じる
被害者は1990年から北九州市立総合体育館の設備管理業務に従事。肺がんを発症して2005年に退職したが、2013年に亡くなりました。福岡地裁は、アスベスト粉じん暴露と肺がん発病、さらに死亡原因との因果関係を認めています。
全国初、アスベスト(石綿)被害で北九州市の管理責任を認める判決
2022年3月24日、福岡高等裁判所は、北九州市立体育館の設備管理業務に従事し、石綿による肺がんで亡くなった被害者について、体育館の所有者である北九州市の営造物責任と、勤務先会社である太平ビルサービス㈱の安全配慮義務違反を認め、一審判決に続き約2580万円の支払いを命じました。
被害者は、1990年から2005年まで15年間、ビルメンテナンス会社である太平ビルサービス㈱の従業員として、同社が北九州市などから委託されていた体育館の施設、設備の点検・保守・管理業務に従事し、その現場の作業責任者をしていました。体育館の機械室やアリーナなどの壁や天井には、吹付けロックウールや保温材などの石綿含有建材が多く使用されており、吹付材が劣化して剥がれ落ちたり、改修工事の際に大量の石綿粉じんが飛散していました。被害者は作業中にアスベストを吸い込み、2005年に肺がんを発症し退職。その後、2013年に78歳で亡くなりました。
体育館は建材などに石綿が使われており、勤務当時、劣化した資材が剥がれるなどして石綿の粉じんが飛散する状況があったと指摘。肺がんとの因果関係を認めています。
北九州市の責任
その上で「体育館で勤務を始めるまでに石綿の危険性は広く認識されていた」にもかかわらず、市は06年に除去工事を行うまで、注意喚起や安全対策を行わなかったと判断。粉じんへの暴露は「体育館の設置または管理の瑕疵(かし)に基づく損害」と管理責任を追及されました。
管理会社の責任
勤務先会社についても、「吹付けロックウールが使用されている建築物の保守・管理等を依頼されたビルメンテナンス業者は、石綿粉じんにばく露することにより、そこで作業に従事する従業員の安全性に疑念を抱かせる程度の危険性を認識することは十分可能であった」として、安全配慮義務違反を認めています。
死因との因果関係
また、被害者の直接の死因はARDS(呼吸不全症候群)であったため、市や会社は因果関係を争っていました。しかし、高裁判決は、石綿肺や肺がんによる肺機能低下に伴い全身症状が悪化したことによってARDSを発症したという経過から、「石綿粉じん曝露と死亡との因果関係を否定することはできない」とし、減額も認めない判決がでています。
○NHK北九州:アスベスト裁判 2審も北九州市と会社に賠償命じる福岡高裁(外部リンク)
○毎日新聞:アスベスト訴訟控訴審も北九州市に賠償命令 福岡高裁(外部リンク)
○西日本新聞:北九州市石綿訴訟、二審も市側が敗訴 福岡高裁、市側の控訴を棄却(外部リンク)
○北九州朝日放送:北九州市アスベスト訴訟 市などの控訴を棄却(外部リンク)
アスベスト(石綿)を含む建物の所有者や管理者が訴えられるケースは、アスベストの飛散によって健康被害が発生した場合や、適切な措置を怠った場合に発生します。以下では、具体的な訴訟ケースの背景、発生し得るリスク、実際の事例、法的な側面について、詳細に説明していきます。
アスベストのリスクと法的背景
アスベストは、長年にわたり建材や産業用途で使用されてきましたが、その微細な繊維を吸い込むことで健康被害を引き起こすことが明らかになっています。特に、以下の疾病がアスベスト曝露に関連していることが知られています:
- 中皮腫(アスベスト繊維が原因となる悪性腫瘍)
- 肺がん
- アスベスト肺(肺に繊維が蓄積して引き起こされる病気)
- 胸膜肥厚斑
これらの健康被害は、アスベストを含む材料が劣化し、その繊維が空気中に飛散して吸入されることが原因です。したがって、アスベストを含む建物や建材を所有または管理する者には、適切な対応と管理が強く求められています。もし適切な対応がなされなかった場合、法律によって訴訟を受ける可能性が高まります。
アスベスト関連の法的責任
アスベストに関連する法的責任は、各国の法律や規制によって異なりますが、基本的に以下の要素が含まれます:
- 安全管理義務:建物の所有者や管理者には、アスベストを含む可能性のある建物に対して、安全管理を行う義務があります。特に、アスベスト含有建材の使用状況を把握し、適切に管理することが求められます。
- 除去・封じ込めの義務:アスベストを含む建材が発見された場合、それが劣化し飛散するリスクがあると判断されたとき、専門の業者により適切に除去または封じ込めが行われる必要があります。所有者や管理者がこの義務を怠った場合、健康被害が発生した際に法的責任を問われることがあります。
- 情報開示義務:アスベストを含む建材が使用されている建物に関しては、所有者や管理者がその事実を周知し、特に建物を使用する従業員や居住者に対して情報を提供する義務があります。この義務を怠った場合、損害賠償を請求される可能性があります。
アスベストに関する訴訟の典型的なケース
アスベストに関する訴訟は、主に以下の状況で発生します:
(1) 解体・改修工事中の不適切な対応による訴訟
建物の解体や改修工事が行われる際、アスベストを含む建材が使用されている場合には、事前に調査が行われ、その結果に基づき適切な措置を講じる必要があります。しかし、事前調査が不十分であったり、適切な処理が行われなかった場合、アスベスト繊維が飛散し、作業員や周辺住民が健康被害を受けることがあります。
例えば、建物の所有者や管理者がアスベストの存在を把握していながら、工事業者に適切な情報を提供しなかった場合、工事中にアスベストが飛散し、作業員がそれを吸い込んで健康被害を受けたとして訴訟を起こされるケースがあります。このような場合、所有者や管理者は情報提供義務違反や安全管理義務違反で責任を問われることがあります。
(2) 労働者への影響による訴訟
アスベスト関連の訴訟では、過去にアスベストを扱っていた労働者や、その建物で働いていた従業員が健康被害を訴えるケースもあります。特に、中皮腫や肺がんなどのアスベスト関連疾患は、潜伏期間が長く、数十年後に発症することが多いため、長年にわたりアスベストに曝露していた労働者が、後年になって建物の所有者や雇用主を相手に訴訟を起こすケースが見られます。
(3) 周辺住民への影響による訴訟
建物の解体や改修工事中にアスベストが飛散し、近隣住民がその影響を受けた場合も、所有者や管理者は訴訟を起こされる可能性があります。特に、アスベストが大量に飛散した場合や、その影響で健康被害が確認された場合、被害者は所有者や管理者に対して損害賠償を求めることができます。
例えば、イギリスやアメリカでは、アスベスト工場の近隣に住んでいた人々が、工場から飛散したアスベスト繊維によって健康被害を受け、工場の所有者を相手取って集団訴訟を起こすケースが多数発生しています。
(4) 管理不十分な建物の所有者に対する訴訟
アスベストを含む建材が劣化し、繊維が飛散する可能性があるにもかかわらず、適切な管理や補修が行われなかった場合、建物の所有者や管理者が責任を問われることがあります。このようなケースでは、アスベストの劣化に気づいていながら放置したことが、重大な過失として見なされることがあります。
例えば、日本では、公共施設や学校などの古い建物にアスベストが使用されており、それらが劣化しているにもかかわらず適切な管理が行われていなかった場合、地域住民やそこで働く従業員から訴訟を起こされることがあります。
海外での訴訟事例
アメリカの訴訟事例
アメリカでは、アスベスト関連の訴訟が非常に多く発生しており、企業や建物の所有者が莫大な損害賠償を命じられることがあります。例えば、アスベストを含む建材を製造していた企業が、自社の製品が原因で労働者や消費者に健康被害をもたらしたとして、数十億ドル規模の訴訟に発展した事例もあります。
イギリスの訴訟事例
イギリスでも、アスベスト関連の訴訟が多く見られます。特に、工場でアスベストを扱っていた労働者や、その周辺に住んでいた住民が、後年になって健康被害を訴えるケースが多発しています。例えば、ロンドン近郊の工場で働いていた労働者が、中皮腫を発症し、その工場を相手取って訴訟を起こし、多額の損害賠償が支払われたケースがあります。